ニコンでレンズを改造してみる
現在では製造を中止してしまいましたが、ニコンにはPCニッコールと言う特殊レンズがありました。ラインナップされていた4本のレンズはいずれも生産本数が少なく、展示品なども都心のヨドバシカメラやビックカメラなどでしか置かれていなかったので、ニコンユーザーでも知らない方も居るかと思います。
PCニッコール1とはどういったレンズかと言うと、大判カメラなどで行うアオリ機能をある程度135判のカメラでも行えるようにシフトティルト機能を設けたもの2です。このアオリ機能によって建物などをパースが付かない自然なままで撮影したり、物撮りなどで絞り込まずとも対象物全体にピントを合わせることができるようになります。ただし大判カメラのように蛇腹部分を任意に動かすのではなく、シフトとティルトに対応するノブを回すことと、レンズの方向を回転させることでレンズを任意の位置に移動させたり傾けたりします。
ラインナップとしては広角側より、PC19mm/f4E,PC-E24mm/f3.5D,45mm/f2.8D,85mm/f2.8Dの4本がありました。PC-Eニッコールとも呼ばれる24,45,85mmは2008年に発売され、そのうち85mmのみは1999年に発売されたPC-85mm/f2.8Dを電磁絞り対応とコーティングをナノクリスタルコートに変更したアップデート品でした。この3本から遅れること8年、2016年に、PC19mm/f4Eが次世代のレンズとして登場し、キヤノンのシフトティルトレンズ同様に、絞りリングを廃止し電磁絞りのみになると共に、シフトの平行、直交が任意に変更可能になる機構が搭載されるようになりました。そのためPC-Eニッコールの24,45,85mmの3本は新品は直交で納品され、メーカーへの改造と言う形で平行化する仕様となっていました。
生産本数が少ないと書きましたが、最も多く生産されたPC-E24mmが2万本弱、PC-E45,85mmがそれぞれ8千本強、PC19mmが6千本強、リモデル前のPC85mmが1万本弱となっています。キットレンズとして販売されているZマウント用の標準ズームがそれぞれ24-70mm/f4が46万本、16-50mm/f3.5-5.6が75万本あまり生産されていることを考えると、生産本数の少なさを実感できるのではないでしょうか。
僕のようにほぼシフト側のみ使用しティルトはピント面の調整程度にしか使わないのであれば兎も角、シフトしつつティルトも併用するような物撮りではデフォルトの直交は不便なので、PC-E85mmは平行化改造されているものを見ます。むしろ85mmはレンズ構造上平行化改造は必須とまで言われることもあるので、直交状態のままのレンズは稀有ではないでしょうか。それもそのはずで、レンズ上面のハの字状に貼られた蓄光テープを見れば一目瞭然ですが、一番上PC-E85mmのみはレンズ先端から見るとハの字が逆になっています。85mmのみがティルト時に湾曲する方向が逆であり、この湾曲方向ではティルト角が大きくなると光軸がズレてしまいシフトで調整が必要になります。しかしティルトしつつシフトという操作は平行でないと使用できないので、必然的に平行化改造をすることになってしまいます。
24mmは19mmの購入後は使用頻度が低くなり処分してしまいましたが、ティルトの湾曲は19mmや45mmと同様です。
上のレンズはPC-E45mmで直交のままですが、下のPC-E85mmは平行化改造されています。直交は見ての通りティルトノブはレンズ上面、シフトノブは側面となっています。それに対し平行はティルト、シフトノブ共に同じ面にあります。ハの字の向きが逆なのも判りやすいですね。
ティルト部分に蓄光テープを貼っているのは、ティルトが中立位置にあるかを把握し易いようにテープのラインが繋がるようにしているためです。PC19mmはティルトロック機構が備わっていますが、PC-Eの3本はノブのネジを緩めるだけなので、油断すると意外とティルトシフトが動いてしまうこともあり目視チェックは大事です。
前置きが長くなってしまいましたが、劣化部品の交換ついでにPC-E85mmを直交仕様から平行化改造して貰いました。昔メーカーに聞いた時は、加工費用は¥8,000程でしたが、R7年ともなると値上がりしています。
目一杯ティルトすることもないので直交のままでも問題無かったのですが、ゴム交換だけで技術料がかかってしまうのと、この改造もいつまで行えるか判らないのでついでに作業してもらいました。今更平行化改造する方が居るか不明ですがR7年現在でもメーカーは改造してくれますと言う記録として。
ゴム交換でパット見は新品同様に。